小塩 節【著】「トーマス・マンとドイツに時代」

十九世紀後半から二十世紀半ばまで、ヨーロッパと世界の戦乱の震源地はいつもドイツだった。まさにそれはよかれ悪しかれ「ドイツの時代」だった。トーマス・マン(1875〜1955)はそのことについて次のように問いかけている。「世界にかくも良きもの美しきものを与えた」のに、しかもなお「再三再四かくも宿命的に世界の厄介者となったこの民族の性格と運命の中にひそむ謎」はいったい何だろうか、と(講演『ドイツとドイツ人』1945)。(『はじめ』により)