上山 安敏【著】「世紀末ドイツの若者」

世紀末ドイツの若者 (講談社学術文庫)

世紀末ドイツの若者 (講談社学術文庫)

 ・読了。世紀末ドイツの若者たちの行動や心性について、ナチズムに言及している以下の印象的な一節を引用。

ヒトラーはオーストラリアのブラウナウからやってきて魔術師のようにドイツの観客を一瞬の間に陶酔と熱狂の坩堝におとし入れ、やがて歴史の舞台から楽屋に消えてしまったというようなものではない。ナチズムの根を掘り下げていくならば、世紀末に生きる人々の集合心性にまで達する。いや、もっとエクセントリックな穿鑿心を働かせば、ロマンティークの「青い花」そのものを超えて、北方民族の宗教感情を、ローマ教会とユダヤ人からの解放感から引き出したルター主義にまで遡ることができよう。非政治的ユートピアアナキストボヘミアン、神智学的神秘主義、ウィーン青年派の神秘主義ミュンヘンのキャバレー文学、表現主義、生活改革、裸体運動、何一つとっても、ナチスの青年運動と全く無関係であるとはいい切れない。それだけナチスの運動は、深層の部分に触れるものをもっていたといっても誤りではないだろう。だがそれらは一定の方向性を共有しなかった。「自由ドイツ青年」は、それだけ無定形で曖昧な思想集団であった。ワンダーフォーゲルはそれにも増して思想的に未熟だった。(P.259〜P.260)

 ・解説は、木田元