クリス・ボルディック【著】/谷内田浩正・西本あづさ・山本秀行【訳】「フランケンシュタインの影の下に」

フランケンシュタインの影の下に (異貌の19世紀)

フランケンシュタインの影の下に (異貌の19世紀)

フランケンシュタイン神話は、フランスとイギリスでの社会上、産業上の二つの革命から始まる時代の不安を留めている。封建制教皇の権力への危険が及ばぬレトロな関心をもった当時のゴシック小説の大部分とは異なり、メアリー・シェリーの小説は理性の時代に設定されていて、とりわけ近代的な自由と責任が生じる神なき世界を描いている。そこから発展する神話は、人間が世界を再創造し、その自然の環境や受け継がれてきた社会的、政治的形態を暴力的に変革し、そして自らを作り直すという責任を負う時代の新しい問題に、くりかえし向き合うことになる。(P.21〜22)
本書は、高山宏が責任編集した”異貌の19世紀”シリーズの一冊。

マイケル・ハワード【著】/奥村 房夫・奥村 大作【共訳】「改訂版 ヨーロッパ史における戦争」

ヨーロッパ史における戦争 (中公文庫)

ヨーロッパ史における戦争 (中公文庫)

本書の主題は、著者が『エピローグ−ヨーロッパ時代の終焉』冒頭(P.217)で断言しているように、「『ヨーロッパ史における戦争』であって『戦争の歴史』ではない」。そのユニークな戦争観がスリリングな歴史を書かせている。それは章立てにも表れている、つまり、封建騎士の戦争、傭兵の戦争、商人の戦争、専門家の戦争(職業軍人の戦争)、革命の戦争、民族の戦争(国民の戦争)、技術者の戦争、そして、エピローグ−ヨーロッパ時代の終焉、である。

フリッツ・スターン【著】/檜山 雅人【訳】「夢と幻惑 ドイツ史とナチズムのドラマ」

夢と幻惑―ドイツ史とナチズムのドラマ (ポイエーシス叢書)

夢と幻惑―ドイツ史とナチズムのドラマ (ポイエーシス叢書)

「本書に収めた論文はすべて、過去(ワイマール期からナチズムの時代)と現在(1980年代後半、ドイツの壁崩壊前)のドイツ、そしてその過去と正面から取り組んだ歴史家たちの苦闘を論じている。(中略)また、救いをあたえ、恐怖をもたらし、破滅へと導いた体制、すなわちナチズムに、なぜかくも多くのドイツ人が屈してしまったのかという永遠の問題を提起している。」(P.9、序章)
著者自身も亡命ユダヤ人であった。

ニナ・バーリー【著】/竹内 和世【訳】「ナポレオンのエジプト 東方遠征に同行した科学者たちが遺したもの」

ナポレオンのエジプト―東方遠征に同行した科学者たちが遺したもの

ナポレオンのエジプト―東方遠征に同行した科学者たちが遺したもの

ナポレオンの東方遠征、すなわちアレクサンドロス大王の夢の実現に同行した数学者、博物学者、医者、化学者、画家たちの興奮と苦悩を活き活きと描いている。戦争、ペスト、軍隊や現地の人々との軋轢、窮乏、ナポレオンの戦地逃亡に見舞われながらも、ひたすら計測し、描き、収集し、分類し、記録した彼らの業績は一八〇九年から14年の歳月をかけた『エジプト誌』24巻に結実した。
原題は、『MIRAGE』(蜃気楼)。久々に楽しく読めたノンフィクション。

鹿島 茂【著】「パリ・世紀末パノラマ館 エッフェル塔からチョコレートまで」

吉岡 斉【著】「新版 原子力の社会史 その日本的展開」

新版  原子力の社会史 その日本的展開 (朝日選書)

新版 原子力の社会史 その日本的展開 (朝日選書)

帯にある「原爆研究から福島第一原発事故までの唯一の」に違わない本格的な通史で、実に読み応えがあった。政・官・産・学・自治体のせめぎあい/馴れ合いを冷静に批判的に捉えている。
「国際的視点からみた日本の原子力政策の特徴は、民間企業をも束縛する原子力計画が国策として策定されてきたことである。それに関与してきたのが、原子力委員会電源開発調整審議会、総合エネルギー調査会の三者であった。原子力開発利用のプロジェクトはみな、原子力委員会原子力開発長期利用計画や、電源開発調整審議会の電源開発基本計画など、ハイレベルな国家計画にもとづいて進められてきた。これを根拠として、科学技術庁通産省は強力な行政的指導をおこなってきた。このような仕組みは、国家総動員時代から敗戦後の統制経済時代にかけての名残であり、先進国では日本だけが、こうした『社会主義的』体制を現在もなお引きずっている。(中略)そして国民や地元住民に対しては、国策への『理解』(賛成をあらわす日本独自の行政用語)や『合意』(受諾をあらわす日本独自の行政用語)が一方的に要請されてきたのである。」(P.26〜P.27)