猪木 武徳【著】「戦後世界経済史 自由と平等の視点から」

戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)

戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)

「つまり民主国家にとって重要なのは、国民が倫理的に善い選択を行い得るためには、まず十分な知識と情報が必要だということである。いい換えれば、難問を適切に選択し処理するための倫理(モラル)を確かなものにするのは、知性と情報が不可欠なのである。」(P.373)
とすれば、民主国家を標榜する政治家と官僚でありながら、十分な知識を与えず、情報を隠蔽しているとしたら、もはや民主国家とは言えず、自らを否定していることになるだろう。

塚原 史【著】「20世紀思想を読み解く 人間はなぜ非人間的になれるのか」

新書『人間はなぜ非人間的になれるのか』の増補・改訂版。

マリア・ロサ・メノカル【著】/足立 孝【訳】「寛容の文化 ムスリム、ユダヤ人、キリスト教徒の中世スペイン」

寛容の文化―ムスリム、ユダヤ人、キリスト教徒の中世スペイン

寛容の文化―ムスリム、ユダヤ人、キリスト教徒の中世スペイン

情緒的な文章で綴られた中世スペインの歴史物語。ムスリムユダヤ人、キリスト教徒たちのアラビア語ヘブライ語ラテン語、それに様々な土着の世俗語が、多彩な文化(詩歌、建築、美術、音楽・・・)を生み出していく数百年の歴史が愛惜溢れる文章で描かれている。その間にあったであろう葛藤や抗争や血なまぐさい殺戮は極力抑えられている。

山田 克哉【著】「核兵器のしくみ」

核兵器のしくみ (講談社現代新書)

核兵器のしくみ (講談社現代新書)

原子力発電と原子爆弾はどちらも共に「核分裂連鎖反応」という同じ物理現象を基にして成り立っている。もともと原子力発電は「原子力の平和利用」の一環として開発されてきたものだが、原子爆弾は周知のごとく「無差別大量殺戮兵器」である。しかしその基本原理においては、両者は区別がつかない。(P.8)
原子力の平和利用」である原子力発電が「無差別大量殺戮兵器」に転化しうることを証明したのが、まさしく福島第一原発の人災事故であった。
2011年5月9日の第七刷発行なのに、福島の事故が追加されていないのは残念。

中山 茂【著】「天の科学史」

天の科学史 (講談社学術文庫)

天の科学史 (講談社学術文庫)

「科学は宇宙の周辺部へと、どしどし視野を拡大していって、かえって心や自我との対応付づけの問題は忘れてしまっていますが、それに対してまず自我を確立し、それから人間のまわりの環境との調和をとり、最後に宇宙の果てにいたるという物の見方、それを本来の意味でコスモロジーというのです。」(P.261)
占星術や暦などに利用した支配の天文学から、巨大巨額の体制化天文学を経て、プロとアマが融合する庶民の生活感覚に根ざす「宇宙観」、宇宙に対する素朴な疑問を忘れない天文学へと論じる科学史。難しい数式がちょっとだけ出てくるが、それでも十分楽しめた。

多木 浩二【著】『「もの」の詩学 家具、建築、都市のレトリック』

そもそも「もの」が発生するのはなぜかという疑問(P.307)から、「もの」に潜む無意識を探る論考。『第三章 虚構の王国』でルートヴィヒ二世の深層に潜む欲動を、『第四章 ヒトラーの都市』で、ヒトラーや側近が構想した都市それ自体は無形の仕掛けであったと、ヒトラーの時代の無意識を論じている二章が面白かった。

フィリップ・ド・ラ・コタルディエール【監修】/私市 保彦【監訳】「ジュール・ヴェルヌの世紀 科学・冒険・《驚異の旅》」

ジュール・ヴェルヌの世紀―科学・冒険・“驚異の旅”

ジュール・ヴェルヌの世紀―科学・冒険・“驚異の旅”

19世紀の「文明の大いなる飛躍」に棹差した小説家ジュール・ヴェルヌ(1828-1905)の小説群がもたらした希望と夢の数々。「今日、科学と社会の間のインターフェースを活性化させるためにわれわれに足りないもの、それは『もうひとりのジュール・ヴェルヌ』である」(P.3、ミシェル・セールの序文より)。